UX探訪記

UIデザインやUXデザインに関する記事を集めたり書いたりしています。

ユーザー・オフボーディングの考え方

先日 Fitbit からメルマガが届いたのですが、今は使用していないので、メルマガを配信停止することにしました。
メルマガ中のリンクを押すと、以下のような画面が出てきました。

f:id:junichiirokawa:20180824000656p:plain

ちょっと楽しい画面で、思わず笑ってしまいました。

この確認画面から配信停止に進むと、以下のように悲しそうな顔になります。 f:id:junichiirokawa:20180824002942p:plain

このような、サービスを退会するときのUXを「ユーザー・オフボーディング (User Offboarding) 」と呼びますが、今回はこれについて考えてみたいと思います。

サービスの入会時、会員登録してチュートリアルを見て、使えるようになるまでをユーザー・オンボーディング (User Onboarding) と呼びますが、ユーザー・オフボーディングはその逆です。
このユーザー・オフボーディングのポイントは、以下の2つだと考えています。

  • 退会であっても「心地よい体験」であること
  • 退会するとどうなるか?を伝えること

まず一つ目の「心地よい体験」について考えてみます。

退会であっても「心地よい体験」であること

Fitbit の例のように、こうしたウィットに富んだデザイン(「エモーショナルデザイン」と呼ぶこともあります)は、海外のサービスではよく見られます。
日本であまり見られないのは文化的な傾向なのかもしれませんが、海外サービスの例で他に私が知っている退会画面は、

  • サービス責任者が同僚から「ダメなサービス作りやがって」的にパイを投げつけられる映像が流れる
  • ポール・ヤングの「エヴリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」が流れる (歌詞が失恋の未練を歌っている) と、かなりはっちゃけています。

こういったオフボーディングは、ユーザーをサービスに引き留めるのに有効でしょうか?
実際はほとんど役に立たないかもしれませんが、少なくともユーザーが不快になることはありません。
メーカー、サービスに対する親近感がなくなることはなく、もう一度必要になったときに、再度選んでもらえる可能性が高くなると思います。

一方で、引き留めに躍起になり、退会の導線をわかりにくくしたり、意図的に面倒にしたりするオフボーディングもあります。
これらはよく「ダーク・パターン」とか「ダークUX」と呼ばれてやり玉にあがったりしますが、いずれにしてもユーザーは不快になり、「二度と使うか!」となってしまうかもしれません。

心理学の用語で「親近効果」というものがあり、最後の印象は残りやすいと言われています。
退会する際にも良いUXを提供していくのが成熟したサービスの考え方であり、長い目でプラスに働いてくるように思います。

退会するとどうなるか?を伝えること

ただ、退会しやすくするとして、予想以上に退会されても困ります。
そうならないよう、引き留め方に工夫が必要なのだと思います。
ただ単純に引っ張り戻そうとしても無理なものは無理。それであればユーザーに気づいてもらうのが一番です。

この場合、「退会を引き留める」のではなく、「退会により問題となること、つまりユーザーが損をすることを伝える」ようにして、ユーザーに気づきを与えるのが良いと思います。 上で見ていただいた通り、Fitbit は現状そういった工夫はされていませんが、Fitbit 自体、ヘルスケアのブランドですから、例えば健康面に訴求するのがよいと思います。

タバコの注意書きみたいに「あなたの健康が害される恐れがあります」と記載するのもよいかもしれません。
ただこれは半ば脅しっぽいので、もう少しソフトな表現にして、「Fitbitではあなたが将来にわたって健康であることを第一に望んでいます。継続して健康管理していきませんか?」といった説明があると、ユーザーはいったん立ち止まってくれるかもしれません。

行動経済学では、人は得をするより損をするほうに敏感である、と言われています。
退会することにより今まで積み重ねてきた情報がなくなる、など、ユーザーが失うものを伝えることで、今までサービスに入っていて得られていたものに改めて気づいてもらえますし、それでも退会したいユーザーは出てしまうものの、

まとめ

ということで今回はユーザー・オフボーディングについて書いてみました。 ユーザーが気持ちよくサービスを終えたことは良いUXとして記憶に残るはずです。
当座の囲い込みではなく、長期的な視点で考えていくべき内容なのだろうと思います。

ちなみに Fitbit では、このときに「購読を続ける」を選択すると、こんな風に表示されます。 f:id:junichiirokawa:20180829010135p:plain

ポジティブで微笑ましく、退会しなくてよかったと思える(かもしれない)画面ですが、機械翻訳丸出しなのが残念です。